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東京地方裁判所 昭和24年(ヨ)3535号 決定

申請人 左晃 外二名

被申請人 大日本印刷株式会社

一、保証 無保証

二、主  文

被申請人が昭和二十四年十二月四日附をもつて申請人等に対してなした解雇の意思表示はその効力を停止する。

被申請人は、申請人等に対し右解雇前と同様の従業員としての待遇をしなければならない。

被申請人は申請人等に対し、それぞれ別紙第一賃金目録の各人名下の手取賃金額欄記載の賃金二箇月分(昭和二十五年一月及び二月分)及び第二賃金目録の各人名下の手取賃金額欄の賃金(昭和二十四年十二月分残金)を交付せよ。

申請人等のその余の申請はこれを却下する。

三、理  由

本件仮処分申請事件に対する当裁判所の判断の要旨を次にかかげる。

第一、申請人等は被申請人(以下会社という)の従業員であり、同会社の従業員をもつて構成する全日本印刷出版労働組合大日本印刷分会(以下組合という)の組合員である。会社は組合との間に昭和二十三年十二月二十六日労働協約(有効期間一年)を締結し、同協約第十四条には、「会社は従業員の雇傭、解雇、移動、賞罰、その他の人事に付ては事前に組合と協議し協議整つた上之を行う」と定めてある。また会社は同年三月一日就業規則を制定したが、その第百二十条には懲戒の種類として、譴責、減給、出勤停止、及び懲戒解雇の四種が定められてあり、第百二十一条及び第百二十二条には譴責、減給、出勤停止、及び即時解雇の該当事由が定められてある。(もつとも即時解雇は、各該当事由の外、更にその情状重き者であることを必要とする旨規定されている。)

ところで、会社は昭和二十四年十一月二十四日、申請人等外二名を就業規則第百二十二条に該当するものとして懲戒解雇に処せんがため、前記協約第十四条に基き解雇理由書をそえて組合に対し協議を求めたところ、組合は同年十二月四日会社に対して右懲戒解雇に異議なき旨囘答したので、会社は同日申請人等に対して懲戒解雇に処する旨の意思表示をした。従来協約第十四条所定の人事に関しては、組合の中央委員会はその諮問機関たる人事管理委員会に一応原案を附議する慣行が存したが、本件の場合においても中央委員会は人事管理委員会の審議結果(申請人等の懲戒解雇案は不当であるという結論である)を聴取したのち、全組合員の投票で懲戒解雇案の可否を決定することにきめ、結局全組合員投票の結果、会社の懲戒案に同意することに決したので(賛成一三三五票、反対六八九票、白紙六三票、無効五票、棄権六票)、中央委員会において右投票の結果を確認したうえ、組合は会社に対し解雇案に同意する旨囘答したものであつて、結局本件解雇の意思表示は前記協約第十四条に基き組合と協議整つたうえなされたものであるから協約違反のかどはない。

第二、しかし本件懲戒解雇は、使用者と従業員双方を拘束する就業規則の適用による解雇であつて、それ自体解雇権の行使を制限するものではないが、いやしくも法的拘束力をもつ就業規則の適用としてなされる以上、懲戒事由の存否の認定、情状の判定等は使用者の自由裁量に委さるべきものではなく、使用者は客観的に妥当な就業規則の適用をなすべき義務があり、従つてその適用を誤つた場合には、たとい協約に基き組合の同意をえた場合でも、その懲戒解雇が就業規則に違反することに変りなく無効であるといわなければならない。よつて次に懲戒事由該当事実の存否並びに就業規則適用の当否について判断する。

(A)  懲戒事由該当事実の存否について、

会社のあげる申請人等に対する懲戒事由たる事実は次の限度において一応これを認めることができる。

一、申請人左について(懲戒事由は勤務不良、文書無断頒布及び脅迫)

(イ) 同人の日常の出勤状態が昭和二十四年六月から同年十一月に至る間欠勤十九日、半日欠勤三日遅刻七十二囘であることは当事者間に争いがなくその遅刻囘数は同一算定期間における勤務不良者中でも多い方に属し、上長や勤労課長より再三の注意をうけたことは、一応これを認めることができるが右は父の失業、母の病気及び本人の病気等家庭並びに一身上の煩事にわざわいされたことにも一半の原因が存することがうかがわれるから、諸般の事情からみて本人の遅刻、欠勤には多少の同情すべき点はある。

(ロ) 同人は日本共産党日本印刷細胞工場新聞「印刷工」の編輯兼発行人であるが、同人が会社の許可を受けることなくしばしばこれを会社構内に貼付したことについては一応の疎明があり、昭和二十四年六月二十八日の同誌に「北島内閣熱海にて定例閣議」と題する記事を掲載したことは当事者間に争いがない。しかし「印刷工」の構内撒布が作業時間中に許可なく行われたことについての疎明は乏しく、また「印刷工」の配布掲示等によつて、他の従業員が煽動せられ作業能率を減退したとの事実についてはこれを認めるに足る具体的な疎明資料はない。なお右六月二十八日の記事が根拠薄弱な想像的記事であつて北島專務その他会社役員の名誉をきずつける節のあることは一応これを認めるが、記事全体からみると主として会社の組合対策並びに企業整備等に対する態度を批判したものであり、しかもそれが「得意先に対して会社の信用を失墜せしめ会社に損害を与える」程度のものとは認めることができない。

(ハ) 保安長や勤労課より再三の注意に拘らず無断で「印刷工」及びアヂビラを構内各所に貼付したことや昭和二十四年十月十二日「五十嵐君(保安長を指す)に告ぐ、はがすとタメにならぬぞヨ」と書いたビラを貼り、又同月十八日研究所第七室廊下に許可なく掲示竝びに貼付してあつた黒板及び細胞ニュースを勤労課長が除去したところ、翌日同課長に対し電話で応酬したすえ、「あまり図々しくすると闇打ちだぞ」と言つた事実は一応これを認めるが、今日の一般工場労働者の日常の言動に照し前者は諧謔的な表現とみるのが相当であり、後者も用語において穩当を欠くが、本人の性格並びに平素の言行に照し、脅迫の真意に出たものとは認め難く殊に本人の気質を知悉している同課長にとつて脅迫が成立するとは認められない。

(ニ) 昭和二十三年六月二十四日蒸溜室約四坪が全焼し申請人はその責任者として一週間の出勤停止処分を受けたことは当事者間に争ないが、その後の二囘の失火事故が同申請人の責任であるということについては、これを疎明するにたる資料がない。

二、申請人市川について(懲戒事由は勤務不良及び上長命令違反)

(イ) (1)昭和二十四年九月初旬頃作業時間中職場を離れ数名の従業員と共に経理部長に対し、同年八月分給料残額の一時支払を要求したこと、(2)同月十二日作業時間中職場を離れ従業員七、八名と共に地下足袋長靴支給等職場の要求事項について平田課長及び工場長に交渉したが工場長からゴム靴地下足袋はその在庫数量や人手の見透しについて調査中であるから直ちに職場に復帰するよう命ぜられたけれども、同申請人等はその帰途資材倉庫内の受付員勤務室に立寄り係員に対し強圧的態度をもつて在庫品を見せろと言つたこと、(3)同年十月三日作業時間中十数名の従業員と共に職場を離脱し、勤労課に至り給料の一囘払を要求したことは一応これを認められる。

(ロ) 同年十一月十五日午後三時半頃中沢係長から所定作業時間一杯作業すべき旨申伝えられた際同申請人はこれに対し即時手を洗うことにより作業を止めるような態度を示したことは、これをうかがいうるけれども、「言下に拒絶して」仕事を抛棄したという点はその真否疑わしく、かえつて当日はそのまま同僚と仕事を続けたものと一応認められる。

三、申請人坂本について(懲戒事由は勤務不良及び上長命令違反並びに文書無断貼付)

(イ) 同人の日常の出勤状態が昭和二十四年六月から同年十一月に至る間欠勤十四日、遅刻三十六囘であることは当事者間に争いがなく、再三上長から注意を受けたこと、及び同年十月二十一日以降四囘にわたり無断で職場を離れた事実は一応これをうかがいうるが、上長が厳重に警告したという事実はその真否疑わしく、同申請人がその職種の性質上他の職場との連絡を必要とすることも否定できないのであつて、その離脱時間全部を業務以外の用に費したかどうか、会社提出の疎明資料の程度では判然しない。

(ロ) 同年十月十四日平版二階階段オドリ場に許可なくポスターを貼付中保安長並びに工場長に発見され注意を受けたけれどもがえんぜず、そのまま貼付行為を継続した事実は当事者間に争いない。

四、次に申請人等三名に共通する勤務不良の該当事実として会社の主張する「作業時間中常に職場を離脱した」という事実については、同人等が組合幹部として組合活動に熱心なるの反面、各人について程度の差はあるが、とかく職場を離脱することが多かつたことが推測し得られる。なお特に申請人市川については作業日報による作業時間と会社の承認した組合活動時間との対比により毎日一時間ないし二時間の職場離脱時間が算定せられているが同申請人が職場代表の組合委員でありまた組合の幹部でもあつた関係上、職場の上長である中沢係長が同申請人を特定の機械担当者として取扱わなかつたため正確な作業時間が算出できなかつたことも、これを否定することができないのであつて、その算定時間がことごとく職場離脱であることを明確に判定するにはなお疎明が十分でない。

五、会社の主張する申請人等に対する懲戒事由該当事実中、右以外の事実については、具体的にこれを認めるに足る疎明資料はない。

(B)  右認定の事実は就業規則第百二十二条の各号に該当し、且つ「情状重き者」として懲戒解雇に値いするか。

懲戒処分中懲戒解雇は従業員から絶対に反省の機会を奪う最も重い処分であり、本件就業規則第百二十二条の規定もその立言の趣旨からみて懲戒解雇は相当程度の高い不都合の行為のあつた者に対する処分であることがうかがわれる。従つて懲戒解雇が適当であるかどうかは違反者をそれ以下の軽い処分に付する余地がないかどうか換言すればそうした措置により将来を戒めてもとうてい改悛の見込がないかどうかの観点から判定すべきものと考える。

一、申請人等は職場離脱が多く、その出勤状態も不良であつたことは前認定の通りであり、右職場離脱は主として申請人等組合活動に熱心なる結果に基因するものと一応認められるが、会社の了解がない限り組合事務專従者以外の組合員の就業時間中における組合活動は原則として許されないものと解せられるから申請人等の右職場離脱は不当であるといわなければならない。しかし就業規則第百二十二条第十号にいわゆる「改悛の見込なき者」でしかも同条本文の「情状重きもの」として即時解雇に値するものとは速断しがたい。なんとなれば申請人等が上長から再三注意を受けたことは前認定の通りであるが、会社は本件解雇に至るまで申請人等のこの種行為に対して就業規則を適用し、譴責、減給、出勤停止等の処分をとつて警告した事実は全然なく、また昭和二十三年十二月二十六日の協約締結以来昭和二十四年十月二十一日改正労働組合法に基く組合規約の改正時に至るまで就業時間中の組合活動については事実上組合に対しても、また個々の従業員に対しても明確な態度を示したことがなく、どちらかといえば組合と会社との力関係を考慮し、成り行きにまかせていた観があるのであつて、むしろ会社が従来そうした明確な態度をとらなかつたことがかえつて一般に職場秩序の弛緩をもたらし、就業時間中の組合活動を会社が默認しているかのような感を与えたものと推測せられるのであつて、申請人等の勤務状態が改まらなかつたことについては、会社側のこれに対する措置に欠けるところがあつたことにその一半の責任があるといいうるからである。従つて申請人等の勤務不良の事実は就業規則第百二十二条によつて即時解雇しなければならない程改悛の見込なく情状重しと断ずることは相当とは認められない。

二、申請人左の文書無断貼付の事実は就業規則第百二十二条第十一号、第三十一条第五号に該当し昭和二十四年六月二十八日の「印刷工」の記事は同第百二十二条第三号に該当するが、いずれも情状軽微というべく昭和二十三年六月二十四日の蒸溜室の火災については既に一年前に処分済であつて同種行為の反覆はないのであるから、再度これを懲戒事由として取上げることは妥当でない。

三、申請人市川の勤務不良の事由中昭和二十四年九月初旬頃、同月十二日及び同年十月三日の各集団的交渉の事実は一見情状重きが如き観がないわけではないが、右九月初旬頃の件は会社の賃金遅配に端を発したことであり、同月十二日の件は課長や係長の態度にやや親切を欠いたこともその一因と推測せられ、十月三日の件は従来賃金の支払が二囘になつていたのが突然三囘払になる旨の通知を受けたことに基因するものであつて、同申請人が職場委員の立場上賃金遅配にあえいでいた労働者のために立つた心情を汲めばいずれも情状酌量の余地あるものというべきである。なお同年十一月十五日の上長命令違反の点は就業規則第百二十二条第一号に該当するとはいいえない。

四、申請人坂本の昭和二十四年十月四日の上長命令違反並びに文書無断貼付の事実は就業規則第百二十二条第一号、第十一号、第三十一条第五号に該当するが、当時はたまたま組合より会社に対し八千円の突破資金要求中のことであり、本件ポスターは右突破資金に関するものであつて他の職場においても同様文書の無断貼付の事実があつたことがうかがわれるし、またこの種違反行為に対する会社側の従来の取締態度が緩慢であつたことにもその一因があると推察されるから、情状重しと断定することはいささか苛酷といわなければならない。

以上を要するに、申請人等について認められる懲戒事由該当事実は、一応職場の秩序維持のうえから穩当を欠くものとのそしりを免れないが、会社がその都度適時適切な措置をとらず、譴責・減給・出勤停止等の懲戒処分を全然問題にしないで今一挙に懲戒解雇に処するということは苛酷であり、就業規則の適用上妥当な措置とは認めがたい。従つて会社が申請人等に対してなした本件懲戒解雇は就業規則の正当な適用を欠くものとして無効というべきである。

第三、次に会社からの賃金によつて生計を維持している申請人等が就職困難な現下の社会状勢下において解雇が一応無効なるに拘らず、本案判決確定に至るまで解雇者として取扱かわれることは同人等にとり著しい損害であり、また仮に賃金の支払はこれを受けえたとしても職場への出入を封ぜられ従前の職場で働くことができないことは、著しく労働意欲を阻害せられ、労働者として堪え難い精神上の苦痛と認められる。もつとも申請人等の本件賃金請求に関する申請中既に履行期の到来した昭和二十四年十二月分の残賃金並びに昭和二十五年一月及び二月分の賃金については申請人等がその支払を受けていないため差迫つた困窮状態にあるものと推測しうるが、将来の賃金請求権については、本裁判に規律せられる会社の任意履行に待つのが相当であると認めるからこの部分に関する仮処分の必要はないものと考える。

かように、本件仮処分申請は、右認定の限度において一応その要件を備えているものと認められるから、主文掲記のような仮処分をする次第である。

以上の判断は当事者双方の提出した疎明方法による一応の認定に基くものである。

なお本件仮処分申請においては、申請人等は本件解雇が不当労働行為に該当する旨も併せ主張するが、右解雇が就業規則違反として無効なること前記認定の通りであるから、進んで不当労働行為の有無についての判断はなさない。

よつて主文の通り決定する。

(裁判官 古山宏 中島一郎 緒方節郎)

別紙賃金表<省略>

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